社長のコラム 今月のヒント

平成28年1月号

雨が降ればさりげなく傘を差すことに気が付くこと

様々事業を展開し、戦後の日本経済をけん引した松下幸之助さんは80歳で一切の役職を退いたのちに、松下政経塾を作り、リーダーを育てることに力を注ぎました。幸之助さんが塾生に言い続けたことが「素直であれ」ということでした。幸之助さんは人生における逆境と順境を「素直」という言葉にからめてこう記しています。 
 物事が何もかもうまくいかなくて、不運な境遇に陥ってしまう逆境について「それは尊い試練であり、古来から偉大な人で逆境にもまれなかった人は一人もいない」と諭します。また、物事がうまく行っている順境については「これもまた尊い。努力のたまものである」と賞賛する。そして、「要は逆境であれ、順境であれ、その与えられた境涯(きょうがい)を素直に生きることである。素直さを失った時に、逆境は卑屈を生み、順境はうぬぼれを生む」としています。では、実際に素直に生きるとはどういうことなのでしょうか。幸之助はこう記しています。

雨が降れば、人は何気なく傘をひらくだろう。
この自然な心の働きに、わたしたちは日頃、あまり気づいていない

自然に、そして謙虚にあれという事か。素直とは、自然のみならず誰に対しても至極謙虚であるということなのだろう。
 あるとき、幸之助が関連会社の視察に訪れることになった。そこの会社の社長は、大いに誇りに思い、訪れた幸之助に対して、自社のアピールと製品を作るまでの苦労話などを一生懸命に熱く語った。40分ほどして見学を終えた幸之助は、付の者にこう言った。「あの会社はあんまり儲かっていないだろう」。付きの者は「どうしてお分かりになりましたか」、すると幸之助は「あそこの社長さんは、せっかく私が訪問しているのに、何かを聞こうという態度に欠けていたな。自分ばっかりしゃべってたな」。素直を失うと、自分の話しでいっぱいになり、人の話を聞いて何か新しいものと取り入れようという「余裕のスペース」が心に無くなってしまうのかもしれません。幸之助のいう素直な心の「すなお」とは、

す・・・ 人の話を聞いた時に、すごいですね、すばらしいですね、すてきですねと
相手の話を賞賛できる心の「す」
な・・・ 人の話を聞いた時に、なるほど~と相手の話しから学ぼうという姿勢の「な」
お・・・ 人の話を聞いた時に、おもしろいですねと興味を持つ姿勢になれる「お」

心の中につねに、面と向かった人に対して、賞賛したり、学んだり、おもしろがったりする余裕のスペースを持っている人・・・・それが「すなお」な人なのでしょう。